素領域日記 2011/2/14(月)

マウリドが始まった。
マウリド(Mawlid al-Nabi)とはイスラム教圏における預言者ハメドの誕生祭のことだ。
地元の若者の中にはムルッドゥ(Mouloud)と発音する者もいた。
西暦では今年のマウリドは2月15日と先日確定したのでその日は祝日だが、イスラム暦の一日は月の出、つまり夕方過ぎから始まるせいか聖誕祭は太陽暦の14日夜から一挙にピークの盛り上がりを迎える。
どういう盛り上がり方かと言えば、街中でひたすら花火、爆竹を鳴らしまくるのだ。今この日記を書いている最中も外では大音響が鳴っている。
同僚の報告では街は戦場と化しているようだ。多少大袈裟かもしれないが、実際毎年市民に死傷者が出るそうだ。子供がアパートの窓から人を目がけて強力な爆竹を投げつけるそうだから、それもそのはずだ。とにかく一発一発が爆弾のような音がする…
昨年(は確か2月26日頃)もそうだったが、この騒ぎは深夜まで続く。
こうしたマウリドの祝い方はしかしアルジェリアだけだと地元放送で誰かが否定的なニュアンスを込めて述べていた。地元聖職者風の男もイスラム教とは何の関係もないやり方だと云う。地元同僚も言っていたが、本来この日は家族が集まり、皆で語らう日なのだそうだ。その点ではクリスマスと一緒だ。そして実際多くの家庭ではそうしているそうだ。しかし地元TVによると、爆竹販売がもはや結構な商売になってしまっていて取り締まりにくいようだ。
娯楽の少ないここでは強烈な爆竹を投げまくることが地元民(特に若者か)にとって数少ない憂さ晴らしとなることは想像に難くない。
この地に『バレンタイン・デー』なる現象は存在しないと断言しておこう。爆竹こそがすべてだ。
そんな爆音を聞きながらも思い出すのは、それでも「本物の爆弾の炸裂音はこんな爆竹の比ではない」という国連アルジェ事務所爆破テロ(2007年12月11日)を200メートルほどの至近距離で経験した友人の言葉だ。確か40人前後の人が亡くなった凄惨な事件だ。
現在、その跡地には事務所の影は跡形も無く、残骸が野ざらしになったままだ。

鉄骨が波状に捻じ曲がってしまっているのが見てとれる。これはニューヨークを訪れた時に9.11記念館で展示されていたグラウンド・ゼロの残骸の鉄骨を想起させる。

跡地に面している通りには、上の写真では分かりにくいかもしれないが、今でも爆発による大小のクレーターが認められる。通りを挟んだ向かいにあったアパートも当然爆風で損壊したが、最近ようやく建て直しが完了しつつある。
悲しいのは、まだ事件から3年しか経っていないにもかかわらず現場には花束一つ置いていないことだ。アルジェに花屋は多く見かけるのだが。。風習の問題なのか、あるいはやはり国連事務所跡などどうでもよいということなのだろうか。